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ベトナムで売れている日本の商品は、赤ちゃん用品です

平均月収3万円の国で、なぜ日本製の紙おむつが選ばれるのか。ハノイの店頭で動いている商品と公開データから、ベトナム市場の価格の壁とその例外を考えます。

ベトナム進出のご相談で、最初に聞かれることはだいたい決まっています。

「うちの商品は、ベトナムで売れますか」

正直に言うと、その場では答えられません。ただ、何が売れているかは具体的にお伝えできます。SAKUKOグループはハノイで日本の商品を扱う小売店を35店舗運営していて、会員は70万人います。棚の上で何が動いて、何が残っているかは毎日見ています。

そのうえで言うと、よく動いているのが赤ちゃん用品です。紙おむつ、粉ミルク、ベビーケア用品。この分野は、他のカテゴリとは違う売れ方をします。

この記事では、なぜそうなるのかを、公開されているデータと店頭の実感の両方から考えます。


平均月収3万円の国で、高い日本製が選ばれている

まず数字から。

ベトナム統計総局の家計生活水準調査によると、2024年の1人当たり月間平均所得は542万ドン、日本円で約3万円です。ハノイ市は755万ドン(約4万2千円)で全国平均より高いものの、日本の感覚からすると低い水準です。都市部は689万ドン、農村部は451万ドンで、差は約1.5倍あります。

この数字だけを見ると、「安いものしか売れない市場」という結論になりそうです。

ところが、紙おむつの棚では日本製が定番になっています。現地メーカーの製品より明確に高いにもかかわらず、です。

ベトナムの市場調査会社の記事に、印象的な話が紹介されていました。娘がいる運転手の方が、いくつか試したうえで日本製を選び続けている。理由は「一番蒸れないから」。国産品より高いが、娘のために買っている、と。

これは、店頭で私たちが見ている光景と重なります。


2歳以下の子がいる世帯が、3軒に1軒

なぜ赤ちゃん用品なのか。世帯構成を見ると理由が見えてきます。

調査会社ニールセンが世界60カ国で行った調査では、ベトナムは2歳以下の子どもがいる世帯の割合が31%で、東南アジアで最も高い水準でした。2位のフィリピンが22%ですから、突出しています。1歳未満の子がいる世帯に限っても12%で、世界平均の5%を大きく上回ります。

新生児の数も多く、ベトナム統計総局のデータでは毎年約156万人が生まれています。

市場規模も伸びています。ユーロモニターの推計では、ベビー&ママ用品市場は2021年時点で約50兆1,000億ドン(約3,125億円)、2021年から2025年までの年平均成長率は約7.3%と見込まれていました。

つまり、買う人が多く、市場も伸びている。ここまでは分かりやすい話です。


ただし、出生率はすでに置換水準を割っている

ここからが本題です。

ベトナムの合計特殊出生率は、2026年時点で1.9です。人口を維持するのに必要な2.1を下回っています。1980年には5.05人だったものが、40年ほどで大きく下がりました。

年齢の中央値も上がっています。2026年で33.9歳。2016年には30.1歳でしたから、10年で約4歳上がった計算です。「平均年齢32歳の若い国」という紹介をよく見かけますが、それは数年前のデータで、実態は毎年上がっています。

日本の年齢中央値が50.2歳ですから、依然として大きな差はあります。ただ、方向としては日本と同じ道をたどっているということです。

ここが重要です。

子どもの数が減っているのに、赤ちゃん用品が売れている。これは矛盾ではありません。一人の子にかけるお金が増えていると考えると筋が通ります。

日本でも似たことが起きました。子どもの数が減った時期に、ベビー用品の単価は上がりました。数が減るほど、一人あたりの投資が濃くなる。ベトナムはいま、その入口にいるように見えます。


「価格の壁」には例外がある

ベトナム進出でよく言われるのが「日本の価格をそのまま持ち込んでも売れない」という話です。これは事実で、私たちもそうお伝えしています。

ただし、すべてのカテゴリで同じではないように思います。

私たちが店頭で見ている範囲では、価格への抵抗が比較的小さい商品群があります。

赤ちゃん・子ども向け

自分のためには節約する人が、子どものためには高いものを買う。紙おむつ、粉ミルク、ベビーケアでは、「安全」が価格より優先されやすい傾向があります。

健康・安全に直結するもの

食品の安全性への関心は高く、「どこで作られたか」を気にする人が多い分野です。日本製であることが、安心の根拠として受け取られやすいと感じます。

贈答用

人に渡すものは、自分用より高くても選ばれることがあります。パッケージの見栄えが効くのもこの分野です。

逆に、日用品や嗜好品は、傾向として価格で比べられやすいと見ています。同じ機能なら安い方が選ばれる場面が多く、日本の価格をそのまま通すのは難しくなります。

「ベトナムは所得が低いから安いものしか売れない」は、半分正しくて半分違う、というのが私たちの見方です。カテゴリによって、価格の通り方が大きく違う。


日本企業にとっての示唆

ここまでの話を、進出を検討する立場から整理します。

  1. 自社の商品が「例外カテゴリ」に入るかを先に見る。赤ちゃん向け、健康・安全に関わるもの、贈答に使えるもの。いずれかに当てはまるなら、価格を下げずに勝負できる可能性があります。当てはまらないなら、価格設計から考え直す必要があるかもしれません。
  2. 「日本製だから」ではなく「なぜ日本製なのか」を説明できるか。先ほどの紙おむつで選ばれた理由は「蒸れない」でした。日本製であることそのものではなく、具体的な違いです。これを現地の言葉で伝えられるかどうかで、結果が変わります。
  3. 規制の確認は早い段階で。乳幼児向けの商品は、安全性への期待が高い分、表示・成分・品質管理の要件も厳しくなります。「日本で売れているから」だけで進めると、輸入の段階で止まることがあります。
  4. 販路は変化の途中にある。ベビー用品の販売は、従来は中小規模の小売店が中心でしたが、大都市圏を中心にチェーンストアの出店が進み、近代的な小売の比率は約20%に達したとされています。ECも広がっています。どのチャネルで売るかで、必要な準備が変わります。

最後に

この記事に書いたのは、あくまで私たちが見ている範囲の話です。35店舗の棚で起きていることであって、ベトナム市場のすべてではありません。

ただ、統計だけを読んでも分からないことがあります。平均月収3万円という数字からは、「日本製の高いおむつが定番になっている」という事実は出てきません。

逆に、店頭の実感だけでも足りません。出生率が置換水準を割っていることを知らなければ、いまの好調がいつまで続くかを読み違えます。

両方を突き合わせて、ようやく判断の材料になります。

自社の商品がどちらに当てはまるか。それを一緒に考えるところから、オンライン相談をお受けしています。


参考にした資料

本記事は特定の投資や取引を勧誘するものではありません。市場環境や統計値は時点により変動します。実際のご判断にあたっては、最新の情報をご確認ください。

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